中国漢方であなたの恋を応援します!中国漢方の周期療法で可愛い赤ちゃんをあなたに・・・。中国漢方であなたの心と体の健康を応援します!

●ストレスと自律神経の科学

Dr.健康ミニ講座
ストレスと自律神経の科学

ストレスと自律神経の科学

北里大学東洋医学総合研究所所長 花輪壽彦(はなわとしひこ)先生

ストレスを科学的に診断・分析する

ストレスを知る

 
私どもが注力している研究テーマの一つに、「ヒトのストレス反応の生理学的な検証」があります。その本題に入る前に、まずはストレスそのものについて、触れておきましょう。

ストレス状態とは、外部刺激に不適応の状態

ストレスはもともと物理学の用語ですが、カナダ人のハンス・セリエが1936年に発表した「ストレス学説」を契機に、生理学や医学でも使われるようになりました。

この学説では、生体は外的刺激を受けると、それに適応しようとする反応を起こすと説いています。すなわち、一つの恒常性(ホメオスターシス)の維持機構として捉えているのです。そして、天候の変化や感染症、事故による障害、言葉の暴力など、外部からのあらゆる刺激をストレッサーと呼び、その刺激が強すぎて生体が適応できなくなった時をストレス状態と説明しています。

セリエは、ストレッサーに対する適応反応の全体像を汎適応症候群と呼び、その過程が警告反応期、抵抗期、疲憊期(ひはいき)に分かれると定義しています。

まず、生体が突然ストレッサーにさらされると警告反応が起きます。警告反応期は、初期のショック相とそれに続く反ショック相に分かれます。ショック相は、体温や血圧の変化、細胞破壊など、生体がストレスに翻弄されている状態です。反ショック相はそれに対する防御反応として、副腎皮質ホルモンやアドレナリンなどが急嵕に分泌される時期です。

警告反応期のストレッサーがあまりに強いと生体は死に至りますが、それを乗り越えると抵抗期に移行します。抵抗期は、ストレッサーに対する受身の反応からより積極的な適応反応に移行し、副腎皮質ホルモンなどの分泌は一旦低下し、代わりに脂肪や細胞の増加などで生体機能を再構成して安定的に抵抗します。

しかし、それが長期にわたると抵抗に疲れ、疲憊期に入ります。疲憊期には副腎皮質ホルモンの分泌が再び高まりますが、最終的にはストレッサーに安定的に抵抗していた状態が破綻し、全身機能が急速に低下していきます。

●漢方医学における生体のストレス応答の過程

 興味深いことに、生体のストレス応答の過程を、漢方医学では三陰三陽という概念で説明しており、それはセリエの定義によく似ています。

三陰三陽とは、病気の発症初期から最終的な疲憊期までを、太陽病(たいようびょう)期、少陽病(しょうようびょう)期、陽明病(ようめいびょう)期、大陰病(たいいんびょう)期、少陰病(しょういんびょう)期、蕨陰病(けついんびょう)期の六病期に分けて考える概念です。

感冒を例にすれば、罹患初期の悪寒と発熱は太陽病期、まさに感染を知らせる警告反応期といえます。次の少陽病期と陽明病期は、感染というストレスに対してホメオスターシスの維持機構が通常より高いレベルで反応する状態であり、抵抗期に該当します。そして、三陰といわれる陰病の時期は、抵抗が続いて生体が疲弊した疲憊期を意味します。

実際の臨床においては、複数の疾患を合併することも稀ではありません。セリエは「ある種のストレスに反応している時は、別のストレスへの反応も落ちる」と指摘しています。漢方でもその状態を併病(へいびょう)と呼び、ある病気に抵抗している時に別の病気に罹ると、あとに罹った病気に対しては正常な反応を維持できず、いきなり疲憊期に陥ることもあると説いています。

●ストレスの影響は自律神経に現れる

 では、生体がストレッサーを受けた時、どのように影響が現れるのでしょうか。ここで登場するのが自律神経です。

ヒトは、体の状況に合わせて内臓等の働きを整える命令が脳から常に発せられています。この命令を伝達する神経を自律神経といい、大部分の臓器に対して亢進と抑制の命令を二つの神経に分けて伝えています。この二つの神経を交感神経・副交感神経と呼びます。

交感神経は、中枢の近くにある交感神経節で中継され、色々な器官や臓器に命令を伝達します。

一方、副交感神経は、器官や内臓に直接連絡して指令を伝達します。頭部から出た副交感神経は体のなかをグルグルと迷走して伸びているため迷走神経とも呼ばれます。

また二つの神経は、一つの臓器を二重に拮抗的に支配(二重支配)しています。つまり、交感神経と副交感神経がバランスをとることで、生命維持に欠かせない呼吸、血圧、消化、排泄、体温調節など各臓器の働きを調整しています。

交感神経は、例えば怖いものに出合った時などに心拍数や血圧が上昇する、筋肉が硬直する、目(瞳孔)が開くなど緊張時に「活動する神経」です。逆に副交感神経は「リラックスの神経」で、心拍数や血圧が下降する、血管が拡がる、などに働きます。

ほとんどの臓器が交感神経と副交感神経の二重支配になっているため、ストレスが長期にわたると自律神経が影響を受けてホメオスターシスのバランスが崩れ、心臓や胃腸など様々な臓器に不具合を生じると考えられるのです。


ストレスを測る

 お話ししてきたように、ストレスの影響は自律神経に現れるため、自律神経機能を評価することでストレス状態かどうかを測ることができます。

それでは「ヒトのストレス反応の生理学的な検証」について、私どもの研究成果から、まずはストレスの測定、つまり自律神経機能を評価する方法をいくつかご紹介しましょう。
なお、私は本研究所の所長就任の際、ヒトの臨床研究においては被験者の苦痛を少しでも減らすべきと考え、非侵襲的な手法を用いることを基本方針としました。

光に対する瞳孔径の変化(イリスコーダ)による評価

光刺激に対するヒトの瞳孔径の変化を測定できるイリスコーダと呼ばれる光学機器を用い、自律神経機能への影響を調べてみました。
瞳孔径も交感神経と副交感神経の二重支配を受けており、その変化は自律神経の状態を反映しています。交感神経活性が強く(優位)になるとカーッと目を見開き、リラックスしている時(副交感神経が優位)は瞳孔径が小さくなります。この瞳孔径を観察することで評価します。

瞳孔が光によって小さくなる動きは縮瞳(しゅくどう)、暗くなって開く動きは散瞳(さんどう)と呼ばれます。この試験では、被験者にゴーグルをつけて暗順応させたあと、1秒間の光刺激を与えます。交感神経が緊張していると縮瞳に時間がかかり、副交感神経が優位な状態では、瞳孔はもともと小さく、むしろ光刺激をやめた後の散瞳が遅いという特徴があります。

こうした瞳孔反応の変化の違いは、目視によって比較することは困難ですが、イリスコーダにより、初期状態の瞳孔直径、光刺激から縮瞳開始までの時間、光刺激後の瞳孔最小径、散瞳や縮瞳に要する時間(最高縮瞳速度、最高散瞳速度)など、11の項目を評価します。これをグラフにまとめると、個人個人の自律神経機能の状態がわかります。

近赤外分光法による評価

また、近赤外分光法(Near-Infrared Spectroscopy:NIRS)と呼ばれる機器も活用しています。

NIRSは、可視光と赤外光の間の近赤外分光(波長700〜3000nm)を生体内に投射し、生体組織の活性物質の吸光度の違いにより、酸化ヘモグロビンの割合、すなわち酸素飽和度を測定する機器です。頭部と足の筋肉の酸素飽和度を測定することで、漢方でいう「気逆」(冷えのぼせなど)や脳の活動興奮状態などを測定します。

脈波伝播速度による評価法

さらには脈波伝播速度(Pulse Wave Velocity:PWV)でも評価しています。

脈波伝播速度計は、血圧測定などで使われるマンシェットを手足に装着し、血管の脈波の伝わり方を測定する機器です。脈は交感神経が優位な時、つまり血管がピンと緊張していると脈はスーと速く伝わります。しかし血管が緩んでいるいる時は、脈はフワッと遅く伝わります。この伝わり方の違いをみて緊張しているか、いないかがわかります。

心拍変動による評価法

 自律神経は心機能の基盤ともなっています。心拍変動の解析による低周波成分(LF:0.04〜0.15Hz)と高周波成分(HF:0.15〜0.4Hz)の比(LF/HF)から心臓への影響についても検討しています。

LFは副交感神経と交感神経を、HFは副交感神経を反映するとされ、LF/HFは交感神経活動の程度をあらわすとされています。また、描出される心拍の波形の一つのピーク(R波)と次のピークとの間隔をRR間隔と呼び、その振れ方、ゆらぎ、ひずみを解析することで自律神経の状態を分析します。


ストレスに対する漢方薬の作用の検討

●半夏厚朴湯は交感神経を調節することで自律神経バランスを正常化

 次にこれらの方法を用いて、ストレス性の症状に有効とされる漢方のなかから、半夏厚朴湯の自律神経に対する作用を調べました。

漢方では新陳代謝や精神機能などをコントロールする生体エネルギーを「気」と呼び、その巡りの恒常性を維持・正常化する漢方薬を気剤と呼びます。半夏厚朴湯はこの気剤の一つで構成生薬は半夏、茯苓、厚朴、紫蘇葉、生姜です。

イリスコーダによる検討

 実験では、尿路不定愁訴の一つである頻尿を訴える男性患者さんに被験者になっていただきました。検査に異常はなく、神経質性頻尿と診断されて精神安定剤を他院で処方されていたのですが、憂うつ感、疲労感、イライラ感、首や肩のこり、頭痛などを訴えて当院を受診されました。そこで、この男性の瞳孔反応をイリスコーダで測定したところ、縮瞳までの時間が計れないほど乱れ自律神経は過緊張状態でした。

この男性に半夏厚朴湯を服用してもらうと、半月ほどで頭痛が取れ、頻尿も徐々に軽快し、半年後には様々な症状に改善がみられました。そして1年後、再びイリスコーダによる検査を行ったところ、各項目がほぼ健常者と変わらぬ正常値を示していました。その結果、半夏厚朴湯が交感神経の亢進を改善する(この症例では抑える)作用によって、交感神経と副交感神経のバランスを正常化することが示唆されました。

脈波伝播速度による検討

また、半夏厚朴湯を服用している患者さんの脈波伝播速度を1年間追跡したところ、服用1〜2週目に平均速度が有意に低下し、それが持続することが観察されました。

脈波伝播速度計には、血圧の降下度も示されるのですが、半夏厚朴湯は潜在的に過緊張を伴うような血管の機能的収縮を改善し、その状態を維持している可能性も推測されます。私は過緊張や不安感の強い患者さんに半夏厚朴湯を汎用しますが、日常臨床の印象では、そうした患者さんの多くが白衣高血圧*を呈する傾向もあります。

白衣高血圧*=普段は正常血圧を呈していても、病院などで医師や看護師など白衣を着た人が測定すると高血圧を示すこと。緊張などにより現れることが多い。


心拍変動による検討

さらに心拍変動による検討では、健常者において半夏厚朴湯が心臓自律神経に影響を与えないことが確認され、その効果は自律神経の異常な部分のみに現れ、正常の部分のバランスは維持し続けることが示唆されました。これもまた、漢方薬の長所ではないかと思います。


●半夏厚朴湯には抗不安薬に類似した作用も

またストレス誘発うつ様モデルマウスを用い、半夏厚朴湯の抗うつ作用も検討しました。うつ様モデルマウスは、強制的に水泳をさせて急性ストレスを与えたあとに、斜めに傾いたケージや汚物にまみれたケージ、あるいは振動するケージに入れてマイルドストレス与えることで作成します。そして、うつ様状態を呈したマウスは無動時間が長くなります。

この実験では、半夏厚朴湯がモデルマウスの無動時間を短縮することが確認されました。その作用は、抗不安薬と類似した作用であることが示唆されました。

以上の実験結果を受けて、半夏厚朴湯の活性成分を分析したところ、構成生薬の一つである紫蘇葉に含まれるℓ-ペリルアルデヒドが活性の本体であることが推測されました。また、同じ紫蘇葉に含まれているローズマリック酸も、うつ状態では抑制されている海馬の細胞を増殖させる作用があることが知られています。

しかし、半夏厚朴湯の効果はそれだけでは説明できない部分も多く、より詳細な検討が必要と私どもは考えています。

        *     *     *
 漢方薬は複数の生薬の合剤ですが、構成生薬がどれ一つ欠けても本来の効果を得られないことが確認されています。東洋思想には「無用の用」という言葉があり、用がないようにみえるものが一番大事である可能性を説いています。何の役割も果たしていないと思える成分が、ある活性成分の働きをサポートしている可能性があるわけです。

単一の化合物の効果を評する現状の西洋医学的アプローチでは、漢方薬の効果の全体像を説明できません。

このブラックボックスを解明することが、今後の興味深いテーマとなっています。

(武田薬報 457号)

powered by Quick Homepage Maker 4.81
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional